エンゲージメント向上施策は、「調査→分析→施策検討・実行→再測定」というサイクルで運用されるのが一般的です。しかし、このプロセスが機能するためには、まず「何のためにエンゲージメントを高めるのか」という前提が明確である必要があります。加えて、自社にとってのエンゲージメントの定義が曖昧なまま施策が進められているケースが少なくありません。
その結果、サーベイのスコアを上げること自体が目的となり、本来目指すべき組織の状態や経営成果とのつながりを意識せず、単にサイクルを回しているだけになってしまっているという声もよく聞きます。
さらに、調査結果に基づくアクションも「一般的に良いとされる施策」の焼き直しに陥りがちです。例えば、e-learningの拡充や形式的な1on1、一方的なメッセージ発信など、どの企業でも見られる施策が繰り返されます。
しかし、これらは必ずしも自社の課題の“真因”に紐づいているとは限らず、結果として「やっているが効いていない」状態を生み出します。
目的が曖昧で納得感がないまま施策だけが増えていくと、現場には別の問題が生じます。それが「施策疲れ」です。
特にミドルマネジャーは、すでに多くのプレッシャーを抱えています。リモートワークによるコミュニケーション難化、人材の多様化、生産性向上への要求、ITの高度化、さらにはプレイングマネジャーをせざるを得ない状況など、多方面からの負荷が集中しています。
こうした状況に加えて、新たなエンゲージメント施策が次々に追加されると、「また新しい取り組みか」という受け止めになりがちです。結果として、施策は形だけのものとなり、本来期待される効果は発揮されません。
さらに、従業員側でも「アンケートに答えても変わらない」という認識が広がると、回答の質や協力度が低下し、調査そのものの価値も損なわれていきます。
もう一つ見落とされがちなのが、施策の偏りです。エンゲージメントは感情的な側面を含むため、「働きがい」向上に焦点を当てた施策に偏る傾向があります。
しかし実際には、従業員の状態は「働きがい」と「働きやすさ」の両面によって成り立っています。業務プロセスの非効率やリソース不足、IT環境の不備といった「働きやすさ」に関わる課題が放置されている場合、いくら意欲を引き上げる施策を実施しても、不満は解消されません。
つまり、「やる気を引き出す施策」だけでは不十分であり、「不満を取り除く施策」との両輪でアプローチする必要があります。
エンゲージメントを高めることは、単に従業員の「やる気」を引き出すことではありません。それは、企業と従業員が「共通の目的」に向かって協働する関係性を築くことです。従業員が自らの仕事に意味を見出し、企業の成功を自分ごととして捉えるようになることで、組織全体の生産性や創造性が飛躍的に向上します。そのためには、以下のような取り組みが重要です。
●ビジョンと価値観の共有:企業の存在意義や目指す方向性を明確にし、従業員と共有する。
●キャリア支援と成長機会の提供:従業員が自らの成長を実感できる環境を整える。
●信頼と心理的安全性の確保:意見を自由に言える風土を醸成し、失敗を許容する文化を築く。
●リーダーシップの質の向上:上司が単なる管理者ではなく、コーチやメンターとして機能する。
形式的なエンゲージメント施策から脱却するためには、いくつかの重要な視点があります。
第一に、「自社にとってのエンゲージメントを定義する」ことです。何をもってエンゲージメントが高い状態とするのか、それがどのように経営成果につながるのかを明確にし、経営陣・従業員の共通認識を持たせる必要があります。
第二に、「課題の真因に基づいて施策を絞る」ことです。施策の数を増やすのではなく、効果のある打ち手に集中することが、結果的に負荷の軽減にもつながります。
第三に、「変化の実感を従業員に届ける」ことです。施策の成果が現場で感じられて初めて、次の協力や主体的な関与が生まれます。
エンゲージメント施策は、本来、組織変革を推進するための重要な手段です。しかし、目的や定義が曖昧なまま運用されると、単なる「イベントの繰り返し」となり、現場の疲弊を招く要因にもなりかねません。
重要なのは、サイクルを回すことそのものではなく、「何を変えるために回しているのか」を見失わないことです。自社ならではのエンゲージメントの意味を問い直し、本質的な課題に向き合う——その一歩こそが、形式的な施策から脱却する出発点となります。
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服部 崇宏
デジタルソリューション&コンサルティング本部
オファリング&コンサルティングセンター
ビジネスイノベーション&コンサルティング部