職場対話の不全が招く
エンゲージメント崩壊リスクとその回避策
日経ビジネスLIVE 2025 Winter ソリューション講演 詳細レポート
2025年11月27日(木)、オンラインイベント【日経ビジネスLIVE 2025 Winter】にて、日鉄ソリューションズはクアルトリクス様とともに、「職場対話の不全が招くエンゲージメント崩壊リスクとその回避策」と題したソリューション講演を行いました。本コラムでは、講演で取り上げた「職場対話の不全」がもたらすエンゲージメント低下のリスクについて、具体的な事例を交えながら解説します。
人的資本経営とエンゲージメントの重要性
近年、人的資本経営の重要性が高まる中、日鉄ソリューションズ(NSSOL)は「テクノロジー×人」の価値創出を追求し、採用・育成・エンゲージメント向上の3つの領域で各種施策を推進しています。また、現場組織においても対話会を通じて独自の取り組みを行っています。
服部は「エンゲージメントをKPIとして位置づけ、定期的なサーベイと現場の対話会を連動させて実効性を高めています」と述べ、サーベイの結果を数字や報告で終わらせず、現場の対話・議論を起点にアクションへつなげる仕組みを構築することで、社員の納得感や当事者意識を高めていることを強調しました。
―サーベイ結果の解釈と「腹落ち」
続いて、クアルトリクス合同会社 顧問・XMエバンジェリスト 市川 幹人様が、エンゲージメントサーベイは有効な手段だが 、調査結果に基づく課題やアクションが変革の当事者となる従業員が腹落ちしていない限り実効性に結びつかない、と指摘。
「調査結果の解釈には、絶対水準、相対水準(社内・社外との比較)、設問項目間の相関関係という多面的な定量分析に加え、現場の方々の経験や実感に基づく定性的分析が必要」と強調しました。
特に、数字上は良くても実態はまだ物足りない場合や、逆に数字は低くても職場固有の事情からすれば決して悪い状況ではないケースもあるため、各従業員の日常的な体験を把握する対話を通した解釈が不可欠だとし、この「腹落ち」のプロセスが、アクションの質や組織変革の推進力に直結すると述べました。
―アビリーン・パラドックス 集団意思決定の落とし穴
講演では、組織行動論の研究で知られる「アビリーン・パラドックス」を例に、集団による意思決定の危うさについても紹介されました。市川様は「アビリーン・パラドックスが描写するような誰も本音では望んでいない意思決定が、忖度や思い込みによって集団で選択されてしまう現象は、日本企業でもしばしば発生する」と説明。
こうした事態を防ぐには、心理的安全性の確保、匿名で意見できる仕組み、衝突を避けるつもりの沈黙がリスクになりうること、異なる視点であっても適切に受け入れるインクルーシブな文化が不可欠だ、としました。
また、調査結果やアクションに関する対話会やワークショップにおいては、単なる雑談やリーダーによる一方通行の説明で終わらせず、所属組織で発生している課題を自分ごととして捉えてもらうファシリテーションが求められるとも語りました。
―対話の三階層構造

クアルトリクス社、市川様との対談の中で、NSSOLの服部は、自社のエンゲージメント施策の特長は、「社外」「全社」「現場」という三階層の対話にあるとし、それぞれの特長について以下のように説明しました。
【社外】
経営目標や人事戦略とエンゲージメント向上のつながりを明確に示し、サーベイ結果も「エンゲージメントに効く要素」を特定・モニタリングしながら透明性高く開示
【全社】
各施策のオーナーが自らの思いを社員に発信し、「この人が本気なら自分も関わりたい」と感じられるようなメッセージを届ける
【現場】
事業部、部やグループ単位まで重層的に対話会を多数開催し、一般社員の声が上層へ還元される仕組みによって課題の解像度を上げ、アクションプラン策定につなげている
―NSSOLの実践事例 現場起点の納得感と組織変革
さらに、NSSOLの服部はエンゲージメント向上のための具体的な施策について紹介。「弊社の話となりますが、エンゲージメントサーベイの結果を、衛生要因と動機づけ要因の両面から分析し、課題が顕在化した領域については、業務環境を変革するための新たな組織の立ち上げも行うなど、数年単位で計画を立て改善を進めている」と語りました。
このような全社的な取り組みに加え、現場でもサーベイ結果を統計的に分析しつつ、最終的には現場の実感や意見を集約し、組織ごとのアクションプラン策定につなげており、「自分の意見が組織改善につながる実感や、意見が具体的なアクションに反映されることが社員の納得感や参加意識を高め、エンゲージメント向上につながっていると実感している」と述べました。
―クアルトリクスの示唆 調査から対話、アクションまで
続いては、クアルトリクス社の市川様が、エクスペリエンス・マネジメント(従業員の体験管理)の重要性について言及。「日々の体験の積み重ねがエンゲージメントの水準を決めていく。エンゲージメント調査そのものも体験の一部であり、一連の調査プロセスを通した対話も重要である。設問設計から現場の声に耳を傾けるとともに、調査の目的や意義をしっかり説明しながら参加を促すべきだ」としました。
さらに、調査結果の解釈やアクションプラン策定にこそ、一般従業員の参加機会があるとし、データだけでなく各従業員の意見を重視する運用によって、組織全体の「腹落ち」が生まれ、真に実態のある活動につながると述べました。
また、「例えば、役員と一般従業員のように、組織内の立場の違いによって日々直面する世界は大きく異なり、そうした「エクスペリエンス・ギャップ」を埋めて従業員エンゲージメントを向上させるには、双方向で理解しようとする「対話」が不可欠であることも強調しました。
―実効性ある「対話」のためのポイント
市川様は、リーダーが推進する現場対話において「してはいけないこと」「すべきこと」について次のように述べました。
・個人の主観で原因や背景を決めつけたり、犯人探しや責任の押し付け、雑談や一方通行の説明で終わらせてはいけない
・多様な視点を尊重し、異なる意見を受け止め、意見の背景や理由を丁寧に確認し、アクションプランを現場参加型で設計・実行することが大切
・サーベイ結果の解釈は多面的に行い、現場感覚とのギャップを埋めるべき
このように、多様な意見を尊重し、現場参加型でアクションにつなげる運営こそが、エンゲージメント向上の鍵となります。
―対話を軸にした人的資本経営の未来
本講演を通じて服部は、エンゲージメント向上には「対話」の重要性と、その実効性を高めるノウハウが不可欠であると強調しました。サーベイやデータ分析だけでは現場の納得や当事者意識は生まれず、多層的な対話によって本音や多様な視点を引き出し、一人ひとりが「自分ごと」としてエンゲージメント向上に関われる環境づくりこそが鍵だと語りました。
クアルトリクス社の製品を活用したNSSOLの取り組みは、EX向上を通じて人的資本経営を高度化するための現実的かつ効果的なアプローチを提示しています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にご連絡ください。貴社の状況に応じたご提案をさせていただきます。


日鉄ソリューションズ株式会社
服部 崇宏
デジタルソリューション&コンサルティング本部
オファリング&コンサルティングセンター
ビジネスイノベーション&コンサルティング部

